東西冷戦の再来

2016年12月に書いた原稿です。

欧州の新たな東西冷戦とプーチンの真意

今月15日にロシアのプーチン大統領が訪日し、安倍首相と会談する。首脳会談の最大の焦点は、北方領土返還をめぐる交渉だ。だが日本では、西欧・東欧諸国とロシアとの間で軍事的な緊張が高まっていることは、ほとんど報じられない。私は26年前からドイツに住んでいるが、欧州では、ベルリンの壁崩壊直後の雪どけムードは影をひそめ、1980年代の東西冷戦を思わせる雰囲気が強まっている。

米国を盟主とする軍事同盟・北大西洋条約機構NATO)と欧州連合(EU)は、2014年のロシアによるクリミア併合を境に、同国に対する姿勢を硬化させた。西側諸国は、「ウクライナ内戦でも、ロシアは分離独立勢力に軍事支援を与えている」と非難し、経済制裁を発動している。

軍事関係者の間では、「ロシアが次に併合しようとするのはバルト三国リトアニアラトビアエストニア)だ」という見方が強い。ロシアは、バルト海に面したカリーニングラード周辺に飛び地を持つ。飛び地の北にはリトアニア、南にはポーランド、南東にはロシアの友好国ベラルーシがある。

カリーニングラードベラルーシ間の距離は、わずか100キロメートル。ロシアがこの地峡部を封鎖すれば、バルト三国NATO勢力圏から分断される。バルト三国は第二世界大戦後ソ連に強制編入されたが、1990年以降独立し、EUとNATOに加盟した。これらの地域では、ウクライナ東部と同じく、ロシア系住民の比率が高い。ラトビアのロシア系住民の比率は25.8%。エストニアでは25.1%だ。つまり「在外ロシア人の権益を守る」というプーチンの大義名分は、バルト三国についても使われる可能性がある。

ロシアは、2013年にカリーニングラード周辺で7万人の兵士を動員して大規模な軍事演習を実施した他、今年10月に、核弾頭を装備できる地対地ミサイル「イスカンダー」も配備した。

これに対抗してNATOは、今年夏に、バルト三国にそれぞれ1000人規模の戦闘部隊を駐屯させることを決めた。以前ソ連に属していた国にNATOが戦闘部隊を常駐させるのは、初めてのことだ。さらにNATOは今年6月にポーランドエストニアで、計4万人の兵士を動員した軍事演習を実施している。

バルト三国や西欧諸国が懸念しているのは、米国のトランプ次期大統領が、NATOの存在意義に疑問を投げかけていることだ。トランプが大統領就任後に、NATOへの関与を減らす決定を行った場合、プーチンの立場は有利になる。トランプは、ロシアとの関係改善を示唆する発言も行っている。

ロシアの国内総生産は、クリミア併合以降、1年間で約35%も減った。欧州でNATOとの対決姿勢を強めているプーチンは、他の地域では新しい盟友を見つけようとするだろう。ロシアがEUの経済制裁の効果を緩和するために、中国との間で天然ガスの長期販売契約に調印したことも、その表れだ。したがってロシアは、日本に接近し経済関係の強化を試みるだろう。

プーチンに対する国内の支持率は、クリミア併合後、一時80%に達した。彼は「ロシア系住民を守る」という愛国的な主張、そして領土問題をめぐる強権的な態度で、国民からの支持率を高めることに成功した。そうした人物が極東で、ロシア人が住む島を本当に日本に返還する気があるのだろうか。

我が国は、プーチン氏と北方領土の返還について交渉する際に、彼が欧州では領土をめぐり強権的な態度を取っていること、そしてNATOとの間で対決姿勢を強めている事実を念頭に置く必要がある。ソ連の秘密警察KGBの将校だったプーチンの笑顔に油断してはならない。仮面の裏側に潜む真意を見抜くことが、何よりも重要である。

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