空が青いから白をえらんだのです[読書日記626]

題名:空が青いから白をえらんだのです ―奈良少年刑務所詩集―

編者:寮 美千子(りょう・みちこ)

出版:新潮文庫

価格:476円+税(平成23年6月発行)

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友達さんが紹介されていた詩集です。

詩は詩人が詠ったものではなく、奈良少年刑務所の受刑者(少年たち)の作品。

犯罪を犯した少年たちに対する「社会性涵養プログラム」の一環として、彼らの閉ざした心を表現させるために詩を作るを授業が行なわれました。

著者の寮美千子さんは請われて、このプログラムに参加したそうです。

この本には少年たちの詩57編が載っています。

「何も書くことがなかったら、好きな色について書いてください」という課題に対して、Bくんが提出した作品が次のものでした。

“すきな色

 ぼくのすきな色は

 青色です。

 つぎにすきな色は

 赤色です”

編者の寮美千子さんは、この詩を聞いたときの様子を次のように書いています。

“あまりにも直球。

 いったい、どんな言葉をかけたらいいのか、とまどっていると、

 受講生が二人、ハイッと手を挙げました。

 「ぼくは、Bくんの好きな色を、一つだけじゃなくて二つ聞けてよかったです」

 「ぼくも同じです。Bくんの好きな色を、【二つも教えてもらってうれしかった】です」

 それを聞いて、思わず熱いものがこみあげてきました。

 世間のどんな大人が、どんな先生が、

 こんなやさしい言葉を、Bくんにかけてあげることができるでしょうか。”(19p)

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「母の日」という詩には、次のような一節があります。

“母の日

 「最悪の母の日」と母はいった

 小学生だったぼくは

 まだ母の日なんてしらなかった

 その日が母の日だって 知るよしもなくて

 母に迷惑をかけて 怒らせてしまった

 (以下、略)”(147p)

これに対して寮さんは次のように添えています。

“何気ないひと言が、子どもの心を深く傷つけることがあります。

 言った本人はすっかり忘れていても、

 言われた方はいつまでも忘れられない。

 使い方一つで祝福にもなれば、呪いにもなる言葉。

 言霊の宿る言葉を大切に使いたいものです。”(149p)

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「社会性涵養プログラム」についての説明を、当時、刑務所の教育統括だった細水令子さんの言葉から引用します。

“「社会性涵養プログラム」と名づけられたプロジェクトの対象は、刑務所のなかでも、みんなと歩調を合わせるのがむずかしく、ともすればいじめの対象にもなりかねない人々。

 極端に内気で自己表現が苦手だったり、動作がゆっくりだったり、虐待された記憶があって、心を閉ざしがちな人々だ。

 「家庭では育児放棄され、まわりにお手本になる大人もなく、学校では落ちこぼれの問題児で先生からもまともに相手にしてもらえず、かといって福祉の網の目にはかからなかった。

 そんな、いちばん光の当たりにくいところにいた子が多いんです。

 ですから、情緒が耕されていない。荒れ地のままです。自分自身でも、自分の感情がわからなかったりする。でも、感情がないわけではない。感情は抑圧され、溜まりに溜まり、ある日何かのきっかけで爆発する。

 そんなことで、結果的に不幸な犯罪となってしまったというケースもいくつもあります。

 先生には、童話や詩を通じて、あの子たちの情緒を耕していただきたい」”(162p)

「社会性涵養プログラム」で自分の心を詩で表現することを知った少年たちについて、寮さんは次のように書いています。

“彼らの大きな変貌ぶりを思うと、わたしはなんだか泣けてきてしまうのだ。細水統括のおっしゃるとおりだった。彼らは、一度も耕されたことのない荒れ地だった。

 ほんのちょっと鍬を入れ、水をやるだけで、こんなにも伸びるのだ。たくさんのつぼみをつけ、ときに花を咲かせ、実までならせることもある。

 他者を思いやる心まで育つのだ”(170p)

読んでよかったと思える詩集でした。

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寮 美千子(りょう・みちこ)

1955年、東京生れ。千葉に育つ。中央大学中退。

外務省勤務、コピーライターを経て、85年、毎日童話新人賞を受賞し、作家活動に入る。

2005(平成17)年、小説『楽園の鳥 カルカッタ幻想曲』で泉鏡花文学賞受賞。

06年、奈良に移住し、07年より、奈良少年刑務所「社会性涵養プログラム」講師。宮沢賢治学会会員。児童文学からノンフィクションまで幅広い著作がある。

絵本『父は空 母は大地』(編訳)ほか、『小惑星美術館』『ラジオスター レストラン』『ノスタルギガンテス』『星兎』『夢見る水の王国』『雪姫 遠野おしらさま迷宮』など。

http://ryomichico.net/