朝鮮学校無償化:「母校が認められた」全面勝訴に大歓声

「裁判官が子供たちの笑顔を思い浮かべながら判決を書いてくれた」。朝鮮学校を無償化の対象から外した国の処分を初めて違法と判断した28日の大阪地裁判決。法廷や裁判所周辺では、大阪朝鮮高級学校東大阪市)の関係者らが全面勝訴に大歓声を上げた。日朝関係の悪化や、無償化から外れたことなどで生徒減少に悩む同校。卒業生は「私たちの母校がようやく認められた」と喜んだ。

 午前11時過ぎ、地裁202号法廷。裁判長が「処分を取り消す」と判決文を読み上げると、学校関係者で埋まった傍聴席からは「やった。勝ったぞ」との声が相次いだ。チマ・チョゴリの制服を着た生徒や保護者の中には涙を流す人もいた。

「勝訴」の垂れ幕を掲げ喜ぶ大阪朝鮮高級学校側の弁護士=大阪市北区で2017年7月28日午前11時7分、大西岳彦撮影 毎日新聞 「勝訴」の垂れ幕を掲げ喜ぶ大阪朝鮮高級学校側の弁護士=大阪市北区で2017年7月28日午前11時7…

 裁判所前では、学校側の金星姫(ソンヒ)弁護士らが「勝訴」「行政の差別を司法が糾(ただ)す!」と書かれた垂れ幕を高く掲げた。駆け付けた約100人の支援者らは抱き合って喜んだ。金弁護士は「司法が適正な判断を示してくれた」と興奮を隠さなかった。

 学生や保護者らは毎週、大阪府庁前で無償化適用を訴える活動を続ける。参加する卒業生の女性(19)は在日4世で、幼稚園の頃から朝鮮学校に通った。「在日コリアンとしてのルーツを学びたい」と、兄2人も通った高級学校に進んだ。食品店を営む両親は裕福ではなく、年間約50万円の学費の工面は大変だったろうと気遣う。

 高校生の頃に無償化問題に関心を持ち、大阪市内で在日コリアンが多く住むJR鶴橋駅前などで署名活動を始めた。「生徒は日本で生まれ育った普通の子供たち。在日というだけで差別しないで」。女性の訴えは裁判所に届いた。

 元教員によると、無償化で他校と授業料の格差が広がり生徒の減少で学校経営は悪化。老朽化した校舎を保護者がボランティアで修繕しているという。

 元教員は北朝鮮のミサイル発射のニュースが流れる度に「また学校が批判される。もう撃たないでほしい」と願う。学校では以前のように故金日成国家主席をたたえる歌を生徒に歌わせることもなくなり、朝鮮総連の影響は薄まったという。「朝鮮学校も日本社会で共存できるよう変わろうとしている。国は日本の学校と同じように無償化や補助金を認めてほしい」と話した。

 判決後に記者会見した大阪朝鮮学園の玄英昭(ヒョン・ヨンソ)理事長は「悔しさを胸に巣立った卒業生たちの無念を晴らす画期的な判決だ。政府は控訴しないでほしい」と訴えた。【原田啓之、山崎征克、遠藤浩二

日朝関係に翻弄

 朝鮮学校の無償化問題は、時々の政治や日朝関係に翻弄(ほんろう)され続けてきた。

 高校授業料の無償化は、日本が1979年に批准した国際人権規約に盛り込まれていたが、政府はこの条項を留保し続けてきた。流れが変わったのは2009年の政権交代。無償化を公約に掲げた民主党政権になり、実現した。

 しかし、中井洽拉致問題担当相(当時)は拉致問題などを理由に朝鮮学校を対象外にするよう要請。10年4月に無償化法が施行されても、朝鮮学校には適用されなかった。

 文部科学省は同年11月、「外交上の配慮ではなく、教育上の観点から判断すべきだ」との立場で審査基準を定めたが、直後に北朝鮮が韓国を砲撃。菅直人首相(同)は審査凍結を表明した。

 政府は11年8月に審査を再開、翌年に国際人権規約への留保を撤回したが、再び政権交代が起きた。13年2月、自公政権下村博文文科相(同)は朝鮮学校への適用を想定した規定を削除し、無償化の道は閉ざされた。【原田啓之】

朝鮮学校

 戦後、在日朝鮮人が子弟に朝鮮語を教えるため各地に設置した「国語講習所」が前身。学校教育法上は「各種学校」の扱いで、都道府県ごとの学校法人が運営する。文部科学省によると2016年5月現在、日本の教育課程に合わせた幼稚班、初・中・高級学校が28都道府県に66校(休校5校)あり、児童・生徒数は6185人。うち高級学校は1389人。授業は朝鮮語で行い、朝鮮半島の歴史や地理を学ぶ時間もある。韓国籍日本国籍の児童・生徒も通う。